9.病名を判断するのは患者ではなく医者

患者さんが「食中毒みたいです」と言ったからと言って、それをうのみにして抗生物質を処方する医者はいないでしょう。まともな医者なら、症状から推測できる病気を想像し、検査をし、その上で治療をするでしょう。

同じように、ウェブ制作会社が、お客様から「ウェブサイトを作ってください」と言われたら、そのままウェブサイトをつくるのは良いことでしょうか。お客様としては、たとえば集客が目的であったり、顧客により詳細な商品、サービス情報を発信するのが目的であったりします。しかし、集客が目的なら、ウェブサイトをつくるだけでは成果が出ず、リスティング広告も利用しなければならなかったり、ネット集客よりも織り込みチラシや、実店舗や町の看板の方が適していることもあるでしょう。

お客様は、いまの自分にとってベストな方法を一生懸命考えてご相談にいらっしゃいます。だからこそ、その思いを尊重し、求めるものを実現したい気持ちもわかります。しかし、それが的外れであったり、とても難しかったり、予算がかかる場合もあるのです。だからこそ、プロフェッショナルは、お客様の求めることをそのままするのではなく、お客様のためになることをしなければなりません。

8.パッション・ポジション・ミッション(情熱・戦略・価値観)

強みが無ければ戦略は立てられない、と思う方が多いようです。しかし、実際のところ、多くの小企業は強みと呼べるほどの強みがありません。そんなときは、強みをつくるところから始めます。

そのために、最初に必要なのはパッション(情熱)です。情熱をもって何かをやり続けられるか。石の上にも三年です。それが出来るのであれば、その分野において、他の誰かよりも卓越することが出来ます。単純作業であっても、競合よりも卓越することで、効率が上がり、収益的には差が付きます。その結果として、商品やサービスが改善され、強みとなるのです。

強味が生まれたら、その強みを生かしたポジションを作ります。強味が生きるポジションを取ることで、お客様から見てもその強みがわかりやすくなり、得意な仕事に集中することが出来、商品サービスはさらに洗練されます。さらにそれを継続していくことで、だれから見ても「その仕事なら〇〇さんに頼むべきだ」という共通認識が生まれます。

また、同じように、自分自身にとっても「〇〇なら自分たちが一番得意だから、それだけに集中すればもっとお客様や社会に貢献できる」と思えるようになります。そうなると、他の商品、サービスを捨てることに怖くないでしょう。これがミッションです。いまは何も強味が無いと思う企業でも、パッションを持ち続けることで、必ずミッションを見出すでしょう。これは大変な努力を要することではありますが、難しいことではありません。なぜなら、それをやる人が少ないからです。情熱をもって働くことで、自ずと差がつくのです。

7.まずは大きく捨てる

当社はイノベーションの支援が多いですが、最初にやるのはお客様の事業の中で、優先順位の低いものを辞めていただくことです。次の10年をつくるような大きなイノベーションのためであれば、仕事の3割くらいを辞めていただいて、その分を新しい事業をつくることに使っていただきます。

当社でもism事業という新規事業に取り組みましたが、その時は約半年の間、売り上げを4割落として、その分の時間を新規事業に充てました。その分の赤字を利益で埋め合わせるのに3年以上かかっています。一般的な会計の考え方で言えば、毎年の決算書と言う成績表で黒字にするのが良い経営だと言われます。これが上場企業なら、四半期ごとにその経営成果を公開し、それが黒字であることが望まれます。しかし、このような会計基準で経営戦略が左右されるのはおかしなことです。正しくは、企業が社会に貢献し続けるために、計画的に赤字をだす必要があります。黒字のまま新規事業に取り組めるとしたら、常日頃相当の労働力が余っているということでしょう。

しかし、そうはいっても大きな赤字を出すのは不安でしょう。そこに、経営者の覚悟が試されるのです。大きく捨てなければ大きく取り組めません。そして、大きく捨てるには大きな覚悟が必要なのです。それが経営者の器と呼べるものかもしれません。

6.戦略に働きかけるのではなく、価値観に働きかける

経営コンサルティングと言うと、戦略やマーケティングを変えることで経営を良くする、というイメージがあるでしょう。しかし、私が考える経営コンサルティングは、経営者の価値観に働きかけ、価値観を変化させることで、経営を改善します。

なぜなら、戦略を変えるだけでは、環境変化などでその戦略の有効性が失われてしまった時には、コンサルティングの効果が無くなってしまうからです。コンサルティングの効果の寿命を延ばすためにはどうすればよいか。そう考えて、経営者の価値観に働きかけ、考え方を少しでも変化していただく必要があると思っています。

私も以前はマーケティングの成果で経営に貢献できると考えていました。しかし、昨今のように環境変化が速い中で、一つや二つのマーケティング施策が効果を発揮し続けられるのは、2・3年です。それでは、お客様にとって、コンサルティングの費用対効果を高めることは難しいということがわかりました。もっと長期で貢献し続けるために、価値観に働きかける必要があるのです。クライアント企業の経営者の価値観に働きかけようと思ったら、自分自身の強い価値観が必要ですし、また信頼してもらう必要があります。そのためには、自身の価値観を発信し、共感してくださるお客様を支援することです。

5.ウェブサイトは経営者の価値観を表す

経営者にとって会社は自分自身であり、会社案内であるコーポレートサイトは自分のプロフィールのようなものです。そして、経営者が事業をコントロールするのは簡単ではありませんが、コーポレートサイトは指示さえすれば変えられます。だからこそ、ウェブサイトは経営者の価値観が色濃く出ます。

単に表面のデザインがかっこいいだけ、動きが派手なだけの自慢のようなサイトになっていないか。発言の一つ一つに魂がこもっているか、メッセージがあるか。それとも当たり障りのない内容に終始しているか。また、事業の見せ方としても、部署ごとの事業のサマリーになってしまっていないか、それとも戦略が伝わる、フォーカスされた内容になっているか。

また、古くから採用を大事にしていない会社は伸びないと言いますが、求人ページを見れば採用に対する姿勢もわかります。企業との接点として、接触回数が最も多いのは、かつてはマス広告や店頭での商品でしたが、最近では企業を知る上でもっとも多く接触するのはウェブサイトになってきました。だからこそ、ウェブサイトは企業がお客様に対してどのような姿勢を持っているかをもっとも雄弁に語っているのです。

4.戦略は「選ぶ」のではなく「描く」

戦略を立てるというと、強みや環境変化を前提にいくつかの可能性を引き出し、絞られた選択肢の中からどれかを選択する、というイメージを持っている方が多いと思います。しかし、それは戦略としては2流だと思います。

本当の戦略は、「選ぶ」のではなく「描く」のです。実現が簡単な戦略ほど真似されやすく、実現が難しい戦略ほど真似されにくいものです。そのため、合理的な選択肢として提案できる程度のものは模倣されやすいのです。
本当の戦略は、多くの人が「それは無理だ」というものです。だからこそ、真似されにくく、優位性を築くことができます。そして、「それは無理だ」を実現するエネルギーとして、経営者の情熱が必要です。この人だから出来ること、それが正しい戦略であり、価値を生むことです。

論語によれば、「馬は走るのが早いから走るのが仕事であり、牛は力が強いから重い荷物を持つのが仕事」だそうです。人間社会の分業も同じでしょう。

3.競争のルールが変わった

インターネットの活用というと、単なる集客だと思っている人はまだ多いのではないでしょうか。しかし、それは活用の一面に過ぎません。インターネット活用の本質は、消費者の行動変化への対応です。
インターネットの登場によってあらゆる業界で消費者の行動が変化しました。いまや、すべての商品、サービスの購入の決定において、消費者はインターネットの情報を参考にしています。

たとえば、これまで不動産屋は駅前にあることが優位性でした。駅前にあることが選ばれる理由そのものだったのです。しかし、インターネットの活用が浸透した今、消費者はネット上で物件を探し、その物件を扱っている不動産屋に足を運びます。つまり、いまや駅前にあることはまったく優位性ではなくなってしまったのです。
しかし、いまだにそれを理解できない不動産屋は、「当店は駅前にあります」というウェブサイトを作り、情報を発信します。しかし、消費者はそこに優位性を感じません。このように、インターネットが登場する前と後で競争のルールは変わってしまったのです。

消費者は、インターネットで貴社と競合他社の情報を収集します。そこで得た情報によって、貴社の、そして他社の優位性を確認し、判断し、行動を決定しています。
最終的な注文、契約、問い合わせは、来店、来社、電話によるものかもしれませんが、消費者は、事前に貴社のウェブサイトにアクセスし、貴社と他社を比較した上で行動しているのです。

多くの企業は集客や価格競争を課題と考えますが、本当の課題は選ばれる理由が無いことです。インターネット時代の消費者の行動変化への対応が不十分だということです。集客や値下げで一時的に課題を解決できたように見えても、本当の課題を解決しない限り、近い将来また同じ課題に突き当たるでしょう。

最初にすべきは、インターネットの登場により、自社の顧客の消費行動がどのように変化したのかを知ることです。つまり、新しい競争のルールを理解することです。
つぎに、新しい競争のルールにのっとって、競争優位性を獲得するための戦略を考えてみましょう。